名古屋刑務所暴行事案は無実だろ

http://centertail.hp.infoseek.co.jp/baka/20051104/20051104.html

拘禁者の処遇大改革 塀の中に光差すのか
東京新聞 - 2006年4月2日
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060403/mng_____tokuho__000.shtml
 警察留置場も含めた「塀の中」の大改革が正念場を迎えている。監獄法を九十八年ぶりに改正した受刑者処遇法が来月、施行される。一方、未決拘禁者や死刑確定者まで対象を広げた同法改正案が今国会に提出されている。四年前に発覚した名古屋刑務所事件がきっかけだが、何が改革されるのか。「刑務所の実態はその国の文化程度を示す」という言葉もある。塀の中に光は差すのか。 (田原拓治)

 先月二十三日、最高裁の第一小法廷。「被上告人は上告人に対し、一万円を支払え」。裁判長が告げた。最高裁では判決理由は読まれない。五分で閉廷した。

 「相手が違法だって書いてあるから、勝ったってことだよね」。上告人の加藤三郎さんは判決文を手に半信半疑な様子だった。被上告人なる相手は国。具体的には熊本刑務所だった。

 加藤さんは一九八九年から二〇〇二年まで同刑務所に服役した。在監中、塀の中での処遇問題で新聞社に手紙を出そうとしたが、許可されず、抗議する意味で国家賠償請求を訴えた。

 金銭的余裕がなく、弁護士抜きの本人訴訟。一、二審は敗れたが今回、逆転勝訴した。訴えた当初、看守から「やめないと昼夜独居(一日中、独居房に閉じこめる措置)だぞ」と脅されたこともあったという。

 「施行前だけど、新法の影響に間違いない」。支援者らは勝因をそうみる。その新法とは、昨年五月に成立した受刑者処遇法だ。

■名古屋刑務所の集団暴行が契機

 同法は名古屋刑務所での集団暴行死事件の産物だ。事件発覚後、法相の諮問機関「行刑改革会議」が設けられ、一世紀続いた監獄法の改正が始まった。

 約百年ぶりの大改革は二段構えだ。第一段階は刑務所の受刑者を対象にしたこの処遇法。次に処遇法を改正し、容疑者や被告などの未決拘禁者、さらに死刑確定囚まで対象を広げ、すべての塀の中の処遇を改める段取りだ。改正案(未決拘禁法案)も先月十三日、国会に提出されている。

 では、改正案を含め、改革の中身はどうなっているのか。大まかには(1)施設内から外部への交通権の拡大(2)収容者の苦情を受ける視察委員会の設置(3)死刑確定囚の交通範囲の拡大−などが改善点とされる。

 受刑者は従来、親族や弁護士以外の面会は無理だったが、今後は「更生につながる」枠内で友人とも面会できそうだ。死刑確定囚にも「心情の安定に資する」条件で、その可能性が開けた。また、各施設には外部委員で構成する視察委員会が設けられ、収容者は処遇の不満を当局の検査抜きに訴えることができる。

 だが、問題点も少なくない。例えば、外国人収容者には、面会や信書の通訳や翻訳料の当人負担が明記された。お金がなければ、外との連絡は閉ざされる。

 容疑者や被告は法的には拘置所に収容されるべきだが、改正案には“冤罪(えんざい)の温床”との批判が根強い「代用監獄(警察留置場)」の存続も盛り込まれた。

 不明点も多い。視察委員会が機能するか、は構成メンバーによる。弁護士を必ず加えるのか。面会できる友人の基準も不(ふ)明瞭(めいりょう)だ。法務省は、処遇法の運用を定める施行規則や細目について「検討中」(矯正局)と明らかにしていない。

 矯正局によると現在、全国七十四刑務所などの行刑施設に、約六万七千人の受刑者が収容されている。

 法が改正されても、現場職員の意識が変わらなければ、絵に描いたもちになってしまう。「結局は変わらない」(ある受刑者)という不信感は小さくない。

 それを裏付けるかのように昨年十二月、宮城刑務所の元、現役受刑者三人が「看守らから暴行を受けた」として、国家賠償請求訴訟を東京地裁に起こした。

 訴状によると、暴行は昨年五月に連続して発生。いずれも抗弁などを理由に房から引き出された上、投げ飛ばされ、一人は肋骨(ろっこつ)を折ったという。さらに訴状は、同年七月に「自殺」と処理された五十代の受刑者の死因についても、直前に職員と争う声を聞いたという証言から「疑問視されている」と指摘している。

 同刑務所は「訴状の事実はない」と否定するが、同刑務所では昨年六月、職員が受刑者に暴行したり、逆に酒、たばこ、携帯電話の使用を提供した不祥事が発覚。七月に懲戒免職二人を含む十人が処分された。

 名古屋刑務所事件後、改革がうたわれていたにもかかわらず、現場の意識は旧態然だったのか。監獄人権センター事務局長の海渡雄一弁護士は「事件は改革に対し、受刑者になめられかねないと恐れる古い意識の表れだ。こうした傾向を徹底的に除かねば」と話す。

 さらに未決拘禁者を対象とした改正案について、海渡氏は「一定は評価できるが、修正すべき点も多い」と注文を付ける。「代用監獄を減らし、最終的に廃止する文言を法案の付則か、付帯決議に盛り込むべきだし、視察委には弁護士会推薦の弁護士を含むよう確認すべきだ。電話やファクスによる外部交通も運用段階で可能にするというが、法案にも記す必要がある」

 日本弁護士連合会も代用監獄が存続する以上、取り調べの録音、録画や弁護士の立ち会いなどが冤罪防止には急務と訴える。こうした声に対し、法務省矯正局は「刑事手続き全般にかかわることで矯正局の範囲を超える」と話す。

 ただ、今回の改革に対する刑法学者らの視線は厳しい。龍谷大学石塚伸一教授(刑事法)は「特に改正案は改悪」と言い切る。

 「代用監獄は監獄法では『各警察署に付属する留置場を使うことができる』という位置付けだったのに、改正案では『都道府県警が設置する』になった。これは計画中の大規模留置施設の呼び水になる。なぜ、拘置所を造らないのかといえば、結局、警察が容疑者を手放したくないためだ」

 石塚氏は受刑者処遇法についても「名古屋刑務所事件から考えれば、施設内の死亡認定の透明化も図れなかったし、三十年前の国際標準のレベル」とみる。死刑囚処遇でも「法律上は従来は未決並みだったが、改正案では既決(受刑者)に後退した」と批判する。

 「処遇法、改正案併せ、短期的には改善もみられるが、長期的、構造的には致命傷になる危険がある」

 元衆院議員で、秘書給与流用事件により服役経験がある山本譲司氏は「自由な処遇より充実した処遇が必要だ。現実には受刑者の半数以上が再犯者で戻ってくる。財政の観点からも、これでは意味がない。更生プログラムの充実という点ではまだまだだ」と語る。

■「本音語れない雰囲気」が現状

 前出の加藤氏は服役中、しばしば「ここでは本音は口にしてはいけない」と仲間から諭されたという。

 「自分の誤りを見つめるには、人との信頼関係が不可欠だ。でも、現状の施設では、誰もが二重人格にならざるを得ない。システムもさることながら、本音を語れる雰囲気がないと更生の目的は果たせない」